何と二人共、大阪の民族博物館の先生達でベトナムの「ニョクマム」、タイの「ナンプラー」等インドシナ半島の魚醬ぎょしょうを研究する為にハノイに来たとのことであった。

地球は広い。インドシナ半島の魚醬を学問の研究対象としている大変毛色の変わった学者がいるとは。その日は、特別に美味しかったおにぎりと魚醬研究者との出会いで、私にとり生涯忘れ得ない一日となった。

それから十年程度経った頃だと記憶している。偶然に入った高円寺の古本屋の書棚に『魚醬とナレズシの研究』(石毛直道、ケネス・ラドル共著、岩波書店)と題する本を発見した。

ページを捲ると、まさにハノイで出会った学者が書いたものであることがわかった。その本の行間からはニョクマムの匂いが漂い、ハノイのホテルでの出会いが浮かび上がって来たことであった。

おむすびコロリン

一九八二年のお正月は、役所の同期が勤務しているマニラで過ごした。

大晦日の夜は、花火や爆竹の音がうるさくて、なかなか寝つかれなかったことを覚えている。翌朝は、同期に仕えるメイドが美味しい日本食の朝食と弁当まで作ってくれた。

毎週日曜日には教会の礼拝を欠かさないという敬虔なクリスチャンであるメイドの見送りを受け、同期と私は、ボートで河上りを行うブグサハンへの旅に出た。

スペインの片田舎の風景にも似た幾多の村を過ぎ、車で何時間も走り、昼過ぎ、やっと河上りのボートが出発する某ホテルに着いた。ホテルのレストランにてビールを注文し、メイド手製の弁当箱を開ける。

何と、おにぎりの他にタマゴ焼きとタクアンがついていた。長時間のドライブで、お腹がすいていた私達にとって、そのおにぎりは大変美味しかった。