里の長は、丁寧な挨拶を返し、家の中に招き入れると共に、家の者に、キナを呼ぶように言った。キナは、十五年ほど前に、丘から里者に嫁いで四人の子を育てた女で、通訳を務めてもらうためである。丘の長は、よく里の言葉を話すが、訛りがあり、里者にとっては異なるいくつかの音を、区別がついていないのか、分けて発音できないのか、まぜこぜにしてしまう。

一方、丘の言葉は、音は五種類しかなかったが、唇や舌や鼻音を使った変化が複雑である。長同士の対談となれば、誤解を交えるわけにはいかない。

長の家は、村の他の家々と同じように、円錐形に組んだ木の枠を厚く藁で葺いた造りだったが、三つ分の円錐が連なっており、その一つは今日のように、長がお客や村人たちと会って話をするのに使われていた。他の二つは、家の者たちの生活と、いろいろな蓄えを置くのに充てられている。

丘の長と、地面に浅く掘ったいろりを挟んで蓆に座り、干し餅と湯を持ってこさせると、「今年は、米も魚も、多く獲れ、冬も安心です」「そうじゃな、長老連も、今年の冬は、大きな雪は、降らんだろうと言っておる」などと、お互いに聞き取り易いよう、ゆっくりと世間話を交わした。

キナが到着していろりを囲むように二人の間に座ると、里の長は要件を聞いた。

「うむ、相談したいことがあってな」

丘の長は言った。

「うちの若いので、アトウルというのを知っておるじゃろう?」
「ああ、今年の漁祭りを仕切った彼ですな」

里の長は、もう分かった気になった。