放課後、僕は学内の喫茶店で内村としゃべり込んでいた。さっきの件で彼はどうも僕に興味を持ったようだ。

「『さわなみ』はちょっと言いにくいから、沢ちゃんでいくわ」

「そりゃかまんけど」

そんなところから昔は空手をやっていたという話、趣味の音楽の話、クラスの女の子の話、どの子が好み──結局僕はほとんど聞き役だったが、これほど楽しそうに人と話ができる内村がうらやましかった。今の僕には難しそうだ。

しばらくして「もうそろそろ閉めますよ」と白い調理服を着た人に声をかけられた。

まだしゃべり足りなさそうな内村と校舎の玄関口で別れた頃にはあたりはもう薄暗く、東の空には星が一つ二つ見えていた。校舎がその影を落とす白い線で区切っただけの自転車置き場は、この時間にはもう閑散としている、かと思えばさにあらず、研究だか部活だかわからないが、空席二割の状態だ。

出口近くに止めていた僕が開錠しようと屈んだときに、奥の方からガチャガチャガチャガチャ…と不穏な音が聞こえてきた。なんだ、と思う間もなく、隣の自転車が僕によりかかる。とっさに左手で掴み、押し返す。しかし数台の重さとその勢いには勝てず、やばいと思って手を放し後ろに飛び逃げると、巻き込まれた自分の自転車の数台先でその流れは止まった。

(あらら……)

ここまで見事なドミノ倒しもなかなかお目にかかれない。フーっと息を吐き、左奥を見る。十五台くらいは倒れているだろうか、薄暗くてよく見えない。そして自分の自転車だけ引き出そうにも、何台もの下になっているので難しそうだ。仕方なく奥に歩いて行った。