大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
風海小陽氏の小説『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎ルネッサンス新社)より。第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。三人で食事をしていると、いつの間にか春田と木下は本の話題で盛り上がっていた。すっかり打ち解けた様子の二人を横目に僕は――。
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春の出会い(邪気:110 代謝:75 正気:75)
しばらくしてお待ちかねが運ばれてきた。
「そのグラタンおいしそうですね」
「ちょっと食べてみます?」
「いいですか? そしたらこれも食べてみませんか?」
「ありがとう。ぜひ」
ご飯でもケーキでも女の子はシェアする傾向があるんだろうか?
そういうと自分の姉にも食べているものをよく取られる。姉の場合は代わりに自分のを、とは言ってくれないからこれはシェアじゃなくてただの強奪か。僕はなんとなく蚊帳の外な感がして、一人パスタに取り掛かる。
そのとき、木下のパーカーの紐がスープにつかりそうになるのが見えたので、「あっ」と小さく声を出して紐を持ち上げた。木下は急に僕が手を出してきたものだから、ビクッとして振り向いたが、
「紐がスープに入りよったき」
と言うと、
「あ、ありがとうね」
と答えた。そして、
「水もこぼれるで」
と肘に当たりそうなくらい近くにあったコップを移動させると、
「ごめんね」
と呟いた。僕はニコリと笑顔を作った後、またパスタに挑む。このなんということもない土佐弁のやり取りを春田は複雑な面持ちで見ていた。
僕はこのフォークとスプーンで上手にクルクルと巻いて食べるのが苦手だ。ラーメンのように一気にズルズル食べられるほうがよほど気持ちいい。いっそのことグワッとかき込んでやろうかという気にもなるが、きれいな女の子と可愛い女の子を前にしてそれを実行に移す勇気はなかった。
仕方なく少しずつクルクルイライラしながら一人静かに食べた。いつの間にか二人の話は、本の話題になっていた。特にミステリーはともに好きらしく、最近ブームになっている本で盛り上がっている。
まったくミステリーを読まない僕は、そのテクニカルタームがチンプンカンプンで蚊帳の外から完全に場外に追いやられた気がした。
仲良く話し込んでいる二人を横目に、何を想うでもなく窓の外を見る。行き交う車の間を一枚の木の葉が右へ左へと落ち着くことなく流されていた。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。