春の出会い

邪気:90 代謝:80 正気:80

「もう! なんで倒れるのよ!」

一人なのにはっきりと声に出すほど文句を言いながら、力ずくで倒れた自転車を引き起こそうとしている女性がいた。でもペダルやハンドルが絡まっているのか、なかなか持ち上がらないようだ。大丈夫ですか、と声をかけると、悪いことをしていたのを見つけられた子供のように、慌てて顔を上げた。

「あら、春田さん」

少し口元が緩んでいたかもわからない僕に、睨みつけるような視線を向けてくる。ちょっとひるんでしまう。こっちが悪いことをしたみたいだ。

「……沢波くんか」

春田恵美はおよそ無害な知った人だとわかったからか、また下を向いて引っかかった自転車を無理に起こそうとした。僕には授業やサークルのスマートなイメージの彼女からすると、その荒っぽい対応は意外に見えた。こんな人でもイライラを表に出すものなのだ。

「結構引っかかってるから大変やね。ミスった人が慌てて直そうとしてもうまくいかんことも多いんやって。ちょっと代わるわ」