宮中での配属先が決まり、曹端嬪(ツァオたんぴん)付きとなった王暢(ワンチャン)。そこでの日々は刺激的でもあり、個性的な面々との出会いでもあった…。

(3)

曹端嬪(ツァオたんぴん)は、東の間にいた。

「いま、女官に、衣裳をとりに行ってもらっています。牛順廉(ニウシュンリエン)は、楽器の準備を。こんなに早く皇上がおいでになるのは、歌舞を所望なさるおつもりかもしれません」

「かしこまりました」

はたして、万歳爺(ワンスイイエ)が、伴の宦官をぞろぞろと引き連れて、光臨なさった。私たちは、三跪九叩(さんききゅうこう)をもって、最敬礼した。

玄衣黄裳(げんいこうしょう)に、龍の刺繍─至尊が若いというのはきいていたが、人間と同じ顔をしていることに一驚をおぼえた。鱗(うろこ)でおおわれているとか、口が耳まで裂けているとまではいわないが、とにかく常人ならざるものを想像していたのである。

従者のなかに、隆々たる筋骨の偉丈夫がいた。まとっているのは、道士の服である。  

―陶仲文(タオジョンウェン)!

人生を捧げるに足る貴人に会う―厳嵩(イエンソン)や建昌伯(けんしょうはく)に失望し、予言などあてにはならぬと、一時はふてくされもしたが、彼の予言は、いつのまにか現実になっていた。

まさか、あの舞姫が、私の貴人であったとは。

どうして、ここにいるのだろう?

ほんらい、ここは、皇帝と、皇族、皇妃九嬪、そして、その付き人たる宦官、女官しか入ることはできないはずである。男が入るなど、ふつうなら、考えられないことだ。

陶仲文(タオジョンウェン)道士は、よほどの厚遇をうけているのだろうか。

なにか口上をのべようとする駄熊太(ドゥオシュンタイ)師父を手で制し、皇上は、私に目をとめた。