現代セルビア文学におけるホラー、SF のジャンルの旗手として活躍しているゴラン・スクローボニャ。衝撃作『私たちはみんなテスラの子供 前編』を日本初公開します。

第一章 カンタレラ! カンタレラ! 一九一九年六月

イタリア人は立ち上がって、再びお辞儀し、なれなれしく握手した。それから、「本当はもっと話をしたいのだけれど」と言った。アンカは離れていき、広間のドアのところに立ち止まり、ちらりと振り返った。

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グリマルディは、皿と朝食の残りが置かれたテーブルの脇に立ち、彼女の後姿を見つめていた。彼のその視線から察するに、アンカの目論見通りに事がうまく運びそうであった。

ボスィリチチ夫人は、欧州の首都の上流社会をテーマとした数多くのファッション雑誌・年鑑の購読者だった。これらを、ゲーツァ・コーン、たばこ屋ミリチ・ブラディチ、ソロモン・コーエンといった書店から購入していた。それゆえ、広々とした快適な内装の広間で、ウィーンとフランスの最新刊雑誌をいつも読むことができた。

シック・パリジャン、ラ・モード・アルティスティク、グラン・アルボム・ドゥ・シャポー、エリ、ヴィンナー、モーデン・ツァイヒナー、イルストゥリールテ・フラウエンツァイトゥング、あるいはジップ・ヌーベル。十一日の夕方、アンカ・ツキチは暇そうに次から次へとそれらの雑誌のページをめくりながら、絶品の緑茶を味わっていた。そして、ドアのところにグリマルディが現れるのを待っていた。