現代セルビア文学におけるホラー、SF のジャンルの旗手として活躍しているゴラン・スクローボニャ。衝撃作『私たちはみんなテスラの子供 前編』を日本初公開します。

第一章 カンタレラ! カンタレラ! 一九一九年六月

アンカは、耐久性のある本革の浅い靴をはいて自分のターゲットを尾行していた。暗殺者はまずコラーラツ財団のビルにやってきた。そこは、プランクが四日間の講演を行う予定になっている建物である。彼は建物の正面を見て、その大理石で内装を施されたホールに入り、講演会、コンサートなどの催しを予告するポスターの数々を見てから付近の建物まで見て回った。通りの売店でゴマ入りクルミのクッキーを買い、美味しそうに食べ、それから「セルビア王」のホテルに向かった。

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プリビチェヴィチがアンカに伝えたところでは、プランクはベオグラード滞在中に、カレメグダンにあるこのホテルに宿泊するだろうとのことだった。そしてグリマルディも、もちろん自分自身への指令者から正確な情報を受け取っていた。グリマルディは、まさにその指示に基づいて行動していたし、アンカが彼の立場だったら、やはりそうしたであろう。彼は自分のターゲットがいる場所を知りたかった。その犠牲者を消すための最も適切な時間と場所を判断するうえで、その情報がほしかった。グリマルディの目的に対しては疑念があったとしても、今それは完全に晴らされた。イタリア人は見本市会場に行きたいという素振りは見せず、そのホテルのレストランで長居した。そこにとどまって、食事をし、ホテルの部屋や、玄関ホール、回廊、トイレ、通用口、そして逃亡経路となりうる出口をチェックするのだろうと、アンカは推測した。じっくりと観察した後、アンカは歩いて宿屋に戻った。ボスィリチチ夫人の善意からの質問に対しては、ギムナジウムの校長と面接して「いい感じでしたわ」と答え、それから次の策を練るために部屋に引き籠った。

アンカがふと我に帰ると、広間で「ガゼット・デュ・ボン・トン」のページをめくっていた。チャールズ・デイナ・ギブソン、アドルフ・サンドス、ジョルジュ・ピロテルや、その他の芸術家たちの特徴である黒、白、灰色の色調で描かれた最新ファッション作品の数々の絵が、そこにあった。雑誌から視線を上げると、広間のドアのところにグリマルディがいるのではないか。