地域の高齢患者の声に真摯に耳を傾ける医師が、その日常を綴る。コミュニケーションに悩む若い医師、必読。自ら「化石医師」と称するベテラン医師が語る、医療にまつわる話のあれこれを連載でお届けします。

家が一番いい

暖冬の予想通り本年はあまり雪は降りませんでした。とは言え日本でも有数の山国である当地です。

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特に当地の山間地域では一たび雪が降ると大変です。病院を出発する時には雨でした。20分ほど車を走らせ長野県に位置する隣町に入ると、フロントガラスを打ちつける雨は雪交じりのみぞれに変わります。

国道を曲がり山道に入ると道路脇には雪が積もっています。さらに走ること15分、いつの間にか道は真っ白になっています。目的の患者Fさん宅に着く頃はスキー場さながらの風景が目の前に広がります。

「スタッドレスタイヤで4WDの車にしてよかったです」。運転手の安堵の声。帰りはその逆のコースをたどり病院に着くと雨もあがりただ寒風が吹いているだけです。つい先ほどまで滞在した雪世界を語っても実感として感じるスタッフはいません。

普段何気なく受診される患者さんを診察しています。しかし中には訪問診療先のようにとても道路状況が厳しい地域から通院されている方も多いと改めて感じます。

「雪かきしたため腰が痛い」と84歳のSさん。「それは大変でしたね。誰かやってくれないのですか?」「一人暮らしだから誰もやってくれない。雪かきしないと買い物にも行けない」。

続いて入ってきた80歳のKさんも「私も雪かきで大変だった」。そう言えばKさんも独居です。雪国では雪が降れば主要道路はすぐに除雪されます。しかし家から道路へ出るまでの道までは行政の手も回らないようです。

豪雪地帯では雪が降ればボランティアが屋根の雪降ろしをしたり雪かきもしてあげるようですが、SさんやKさん達の地域はそんな活動もないようです。

でも決してこの地域の人々、若者が人情味がないと言うのではありません。地域の過疎化、高齢化の進行によりボランティアとなる若者がいないのが現状なのでしょう。