地域の高齢患者の声に真摯に耳を傾ける医師が、その日常を綴る。コミュニケーションに悩む若い医師、必読。自ら「化石医師」と称するベテラン医師が語る、医療にまつわる話のあれこれを連載でお届けします。

親孝行?

『万引き家族』という物騒な、個人的にはあまり歓迎できないタイトルの映画が注目されています。

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映画は観ていませんが親の年金で生活している家族を扱っている映画のようです。この映画で取り上げられたように親の年金を頼りに生活されている方が少なくないように思います。

医療に携わっていると年金が下りてくる家族を失うことは生活の糧を失うことに直結します。そんな状況に追い込まれるのは何故か独身の男性が多い。女性はあまりいないと思うのは化石医師の経験不足から来る独断でしょうか?

84歳のTさんは肝がんを合併した肝硬変でした。がんの増大に対する治療、溜まった腹水に対する治療、アンモニアの上昇による意識障害などのため再三入院を繰り返しておりました。

病気の進行に伴い歩行する能力も低下し、受診時はいつも息子さんが付き添い車椅子です。こんなに度々入院してその介護をする息子さんも大変だと思っていました。他にご家族はいないのか? どうやら二人暮らしのようです。

でもこんなに病態が急変するようでは、息子さんもおちおち仕事へも行けないだろう。公的な支援を考えてあげなくていいのだろうか? そんな化石医師の疑問に返ってきた答えは「Tさんの年金で生活しており仕事へは行っていません」でした。

Tさんの介護をするために仕事を辞められたのか? それとも初めから仕事には行っていないのか? まだ60歳前の息子さんです。Tさんが逝かれた後、生活ははどうされたのだろう。年金はもう下りてきません。他人事ですが心配な話です。