第一章 道 程

【5】

入学式の数日後、新入生のオリエンテーションのために、学生が一同に大講堂に集められた。これから始まる大学生活に、緊張と高揚が入り混じった雰囲気が満ち満ちていた。

初顔合わせなのにもう、幾つかのグループができて談笑している。同じ高校の出身同士なのかもしれないが、知り合いのいない宮神は適当な席に着いて配布されたシラバスを読み込んでいた。

「やぁ宮神甲一くん、はじめまして」

背後から名前を呼ばれて、宮神は飛び上がるほど驚いた。同窓生はいないはずだし、他校の友人は清川以外にはいない。そもそも、知り合いなら「はじめまして」なんて言うはずがない。

驚いて振り向くと、屈託のない笑顔がこちらを見ている。知らない顔だ。

「誰、だっけ?」

「国際経済学部の宮神くんだろ? やだなあ、オレのこと忘れちゃったか?」

「ごめん……なさい。ちょっと思い出せなくて」

「工学部の上杉だよ。上杉章」

「ごめん。全然、思い出せない」

「そりゃそうだよ、初対面だから」

そういって、上杉と名乗る男はケラケラと笑いながら、講堂の長い机をまわりこんで宮神の隣に座った。

「どうして、僕のことを知ってるのかな」

「知るわけないだろ。今、初めて会ったんだから」

「でも、名前を呼んだよね」

「ああ、それはほら。ここに書いてあるから」

そう言って、机に置いてある大学のクラフト封筒を指さした。それは大学が送ってきた、入学ガイダンスの資料一式が入ったものだった。上杉が指さしたところには、

「宮神甲一 国際経済学部経済学科」

と書いてあった。これが、上杉章との最初の出会いだった。

同じような手口で、上杉は大学内に知り合いをどんどん増やしていった。臆することなく、見ず知らずの人にもどんどん話しかける。

それも少しも気負ったところがなく自然体そのものだから、話しかけられた方がすぐに警戒心を解いてしまう。宮神も、そのひとりだった。

入学して間もない頃は皆知り合いが少ないから、キャンパスに見知った顔を見つけるとほっとする。そうして上杉の周囲にはいつも人が集まり、笑い声が絶えなかった。

桜が散り始める時期になると、上杉の名前は学内中に知れ渡っていた。宮神とは学部が異なるため、初対面以来顔を合わせることもなかったが、噂話は頻繁に耳に届いた。数人から話を聞いたところによると、何でも幼少時代から秀才だったらしく、新潟の地主である父親のバックアップを受け、発明に勤しむ高校時代を過ごしたという。

驚かされたのが、上杉が発明家として特許を取得しているという話だ。詳細は不明だが、木屑に薬剤を混ぜて硬質な状態に変化させる技術でパテント料を受け取り、学費を賄っているというのだ。

同い年であるにもかかわらず、上杉はすでに自分の力で人生を切り拓いている。宮神は、自由奔放に生きている上杉に、急速に心を惹かれていった。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『AMBITION 2050』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。