第二章 奔走

【11】

上杉の話を聞きながら、宮神は少し苛立ってきた。自分がテーマとして追いかけてきた食肉業界が、地球環境を汚す元凶だと言われているかのように感じたからだ。

「ベジタリアンに利があるのはわかった。しかし、食肉業界の人たちだって食い扶持がなくなったら困るだろう」
「すまん、お前を批判したいわけじゃないし、ベジタリアンになれと強要するつもりもない。今後の食肉業界の雇用問題が重要なのもわかってる。でもな、少しだけ考えてくれ。宮神はなぜ肉を食べるんだ?」
「なぜって……」

そう言われると、すぐに答えが浮かばなかった。

「俺たちの世代は、特殊な家庭環境でなかったら、当たり前のように肉を食べて育ってきたはずだ。でも、これからは違う。地球環境を守るなら、一人ひとりが意識を高め、少しずつでもいいから動物性食品の摂取を控えていかなければならない。人類は岐路に立たされているんだ」

スケールの大きな話に思考が追いつかない。

「宮神は今、記者としての誇りを失いかけているのかもしれない。でもな、もっとマクロな視点で世界を見てみろ。取材すべき問題、伝えなければいけない問題は山ほどある。お前だったらそれができるはずだよ」
「その根拠は?」
「ない」
「なんだよ、それ」
「直感だよ。お前なら、もっとでかい仕事ができると思うんだ。ユニオン通信なら、シリコンバレーやニューヨークにも支局があるだろう? 日本を出て取材活動をするのもいいじゃないか。お前がアメリカに来るのなら、俺もいろいろアテンドできるしな」
「アメリカか」

アメリカ駐在は、宮神にとってもまんざらでなかった。幸いと言っていいのか、三十代半ばにして未だひとりやもめだ。いつでも身軽に行動できる。

「アメリカねえ」

宮神はもう一度つぶやいた。ひととおり話を終えた上杉は、宮神の言葉を意に介することなく、「すみません、日本酒を冷でおかわり!」と、大声で注文している。

「お前は変わらんなあ」
「そうかな」
「額は少し後退したけどな」
「うるさいよ」

そうしてふたりは、夜更けまで酒を酌み交わした。酒が進むにつれ、宮神は全身に力が漲っていくような感覚をおぼえた。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『AMBITION 2050』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。