第一章 道 程

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大学生活を実り多きものにするためには、学部選びは非常に重要だ。ほかの先進国と同様に第三次産業のウェイトが高まっている現在の日本では、今後、職業選択の幅がさらに広がると言われている。しかし、希望する職業も定まらない今の状態では、どれかひとつに絞り切れない。

自分はどの道へ進むべきなのか、夏まではあんなに悩んでいた。だが、結論は出せず、いわば判断を先送りする形で大学受験を優先した。にもかかわらず、いざ合格通知を受け取ると、無事に合格できた喜びと安堵感、数週間以内に入学手続きとひとり暮らしの準備を済ませなければならない慌ただしさの中で、押し流されそうになっていた。

その流れから宮神を引き上げて、考える機会を与えてくれたのは父だった。国立大学の医学部に合格した清川に招かれ、清川の家族と祝勝会をしてもらった日の夜、父親が珍しく部屋を訪ねてきた。

「甲一、ちょっといいか」

「うん」

「合格、良かったな。じつは留学を少し強引に諦めさせてしまったから、気にしていたんだ。でも、お前は気持ちを切り替えて、よく頑張ったと思う。おめでとう」

「どうもありがとう。これから学費のこととかあるんだけど、お願いします」

「ああ、それは心配しなくていい。どこに入学するのかもう決めたのか?」

「秀星の法学部かなって思ってるんだけど」

「弁護士でも目指すのか」

「正直にいうと、そこまでは考えられなくて。秀星なら法学部がいいと、先生もアドバイスをしてくれたから。でも、きちんと考えないとだめだね。父さんはどう思う?」

「法律もいいが、経済や経営も面白いと思うぞ。弁護士は困っている人を助ける立派な職業だが、依頼してきた人をひとりずつしか相手にできない。どんなにフル回転で働いても、できる仕事には限りがあるよな。でも、経済や経営を学んで会社をつくると、仲間の力を借りて何千倍も何万倍もの仕事ができる。世界に貢献できるかもしれないぞ」

「なるほど」

「高校までは人間としての土台づくりだ。文武両道、体を鍛え、学問の基礎を築く。そして、これからは自分の器を広げていく時期だ。多くの人と出逢うといい、本をたくさん読むといい。大学の四年間、よく考え、よく勉強して、どれだけ自分の可能性を広げられるかだな」

「はい」

「お前は次男だ。昔から“家督”といって、家屋や田畑を継ぐのは長男と相場が決まっていてな。この家も、お前には悪いがお兄ちゃんが継ぐことになる。でもその代わりに、お前は家や土地に縛られず、自分の思うままに人生を切り拓いていける。学費については面倒を見るが、生活費や小遣いは自分でアルバイトをするなりして生計を立ててみろ」

「うん、わかった」

父親と一対一で語り合ったのはずいぶん久しぶりだった。留学の件に関する父親の思いは、完全に想定外だった。

あのときの口ぶりから、父親が息子の進路に口出しするのは当然だという考えなのだと思ったし、仕方がないと納得もした。でも、じつはそっと見守り、気遣ってくれていたことを知って宮神は、胸のつかえが取れたような爽やかな気持ちだった。

それもあって、父親の言うことはすんなりと心に入ってきた。「世界に貢献できるかもしれないぞ」という殺し文句も胸に刺さり、国際経済学部に決めたのだった。

「世界に貢献する、か」

宮神の心に、闘志にも似た小さな火がともった瞬間だった。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『AMBITION 2050』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。