第一章 新兵

初年兵教育

小銃は手入れをした後、必ず引き金を引いておかねばならないが、往々にしてこれを忘れる者がいる。就寝後、古参兵の不寝番が回ってきて、各小銃の引き金を引いて点検し、一つでもカチンと音がすると班全員がたたき起こされる。

「この銃の手入れをしたのは誰か」

恐る恐る手を上げると、その者は、銃を持って捧げ銃の姿勢を取らされ、
「三八式歩兵銃殿、あなたより先に就寝して申し訳ありません。今後このようなことは絶対致しません。お許し下さい」
と言わされる。

声が小さいと、
「声が小さい。もう一度」と何度でも同じことをやらされる。大の大人が小銃に向かってペコペコしながら謝っている姿は惨めそのものであり、杉井は見ていて嫌悪感を催した。

この種の屈辱的な罰則は数限りなくある。例えば「鶯の谷渡り」であるが、これは十並んだ寝台の一つ目の下を潜り、次の寝台を飛び越して、ここでホーホケキョと声を出し、また次の寝台へ、とこれを五回繰り返させられる。

「蝉」というのは、寝室の五寸角の柱に登らされ、柱の上部にしがみつき、ミンミンと鳴き声を出させられる。声が小さいと「次は油蝉」と命令され、シャンシャンと鳴かされる。

また「伝令」という罰の場合は、寝台の間に立ち、両手を両側の寝台について足を浮かせ、自転車に乗ったように両足を交互に動かすように言われる。

しばらくすると古参兵が「坂に来た、もっと早く」とスピードをあげさせ、最後には「上官が来た、敬礼」と片手をあげさせてドスンと床にしりもちをつかせる。