次の日曜日、予定どおり多恵子は面会に来た。

あらかじめ杉井が次回は外出したい旨伝えてあったので、二人は直ちに外へ出て、「さかき」に向かった。店内はスペースも広く、テーブルや椅子もゆったりとした間隔で置いてあって、鈴村のお薦めどおり落ち着いた雰囲気だった。

多恵子はいつもどおり背筋を伸ばし、両膝を揃えてやや右に傾けて折り、杉井の目をじっと見つめながら口を開いた。

「謙一さんは連隊にはいつまでいらっしゃるのですか」

いつしか多恵子は杉井のことを謙一さんと呼ぶようになっていた。何事にも控えめな多恵子にしてみれば、これは精一杯の大胆な振る舞いのように思われた。杉井もこれに呼応するように、多恵子のことを多恵ちゃんと呼ぶことにしたが、女性を姓以外で呼ぶのは、佐知子を除けば杉井にとっても初めてのことだった。

「九月まではいます。九月に、甲種幹部候補生と乙種幹部候補生の振り分けの試験があり、甲幹は予備士官学校へ進み、乙幹は下士官として間もなく出征となりますが、どちらにしても九月いっぱいは今の連隊にいます」

多恵子の目に心なしか寂しそうな影が映ったように思えた。

「そうですか。やはり兵隊さんは大変ですね。静岡の家でお茶のお仕事をしていた方が楽しいと思ったりすることはないですか」

「連隊に入った者の中には、なるべく早く退役して家に帰り、元の仕事に戻りたいと思っている者もたくさんいます。でも私はそうでもないのです」

「どうしてですか」