第4章 人の資産を“見える化”する

未来力をはかる

経営者は今まで、製造業でいえば、企業を取り巻く景気動向、消費動向などの外部要因や新製品の投入などを想定しながら経営計画を立ててきました。

「企業は人なり」と言いながら、人を資産として捉え、人の資産の増加による企業の成長を数値で考えることがありませんでした。たとえ人材教育を行ったとしても、経営計画に反映させる意識が薄かったといえます。

下のバランスシートは、人を育てることをせず、知識のメンテナンスもしていないことを仮定して作ったものです。派遣社員や契約社員への依存が常態化し、メンタルケアが必要な社員の対策もしない企業を想定しました。

たとえ、現在の業績が黒字だとしても、潜在的な業績悪化を招くリスクにさらされていることがわかります。

[図1]人を育てないときの期首計画バランスシート

実は、現状維持とはこういうことを指すのです。たとえ経営状態が順調でも常に新たな対策を講じなければ生き残れないといわれるのは、このように潜在的なリスクを招いているからです。今後、日本の人口は急速に減少していきます。

その中で起こることは、市場サイズの縮小に合わせた供給力の減少です。つまり淘汰が急速に進むということです。淘汰される企業とはまさに何の経営努力も行わないこのような企業なのです。

期首に人の資産づくりを目指し経営を行っても、期末に思うように利益が上がらないこともありますし、予想より上がることもあります。思うように利益が上がらなかった場合は、期首に行った教育計画で想定した教育倍率がふさわしくなかったと考えます(もちろん、利益の増減は人材力以外にもさまざまな要因が考えられますが、ここでは人の資産に焦点を定めて話を進めたいと思いますので、その他の要因はできる限り外して考えていきます)。