第一章 がんは他人事

ステージⅣと宣告されて

医師の説明を受けるとき、家族に立ち会ってもらうように言われました。理由は患者だけだと聞き漏らす可能性があるからとのこと。そのとき私は自分が高齢者であることを初めて自覚しました。

「あ、私、七十過ぎていたんだ!」

がんを宣告されたとき私はすでに七十二歳でしたが、ハッとしたのです。

三十代半ばのころは、「やだな~もうオバサンじゃない」などと思ったものです。しかしその後の人生で素敵に年を重ねる方々に数多く出会い、「実年齢なんて関係ない!」と年齢にとらわれずに生きるようになっていました。それから入院して生年月日を言うたびに、否が応でも実年齢を実感することにはなりましたが。

医師の説明によれば、右肺の上部に四センチ弱の大きさのがんがあり、周りに細かいがんがたくさんあって、リンパ節や鎖骨にも転移しており、レベルで言えばステージⅣのB。余命三カ月とのことでした。

「手術で取れないのですか?」

と尋ねると、

「右肺のがんを摘出しても、周囲もがん細胞に侵されているのでムリです」

と断言されました。

なんでも、私のがんは手術によって取りきれる局所的なものではなく、大きながんの周りに無数のがんが飛び散っている転移型のものなので、手術でできることは限られている、と言うのです。

まさか自分ががんになると思っていなかったので、さすがに衝撃を受けました。いかに自分の体を過信していたかを思い知らされたのです。仕事先へ連絡をして「がんになっていました」と報告すると、上司が「がんと言っても、ステージⅠかⅡでしょ?」と言うので、「いいえ、違うんです。ステージⅣなんです」と話したら、「大丈夫だよ、自分に合った治療法が見つかるから」と言われ、随分と心が救われたのを憶えています。

だんだんと気持ちが落ち着いてくると、自分としても末期がんと言われたものの、少しも死ぬ気がしないことに気づきました。

余命宣告を

受けても、

まったく死ぬ気には

ならなかった。