第十一章 インフルエンザ

いよいよ次のデートの日が近づいて来た矢先、私は背中に悪寒を感じた。なんだか身体が重たい。

すぐに病院に行くとインフルエンザA型と診断された。高熱が出たが、処方された薬を飲んで安静に過ごしていると割とすぐに熱は下がり楽になった。ようやく外出できるようになったのはデート前日のことだ。

しかしショウ君からの連絡はない。携帯を眺めては溜め息をついた。

こんなときに限って、旦那が出張で一週間も帰って来なかった。私は圧倒的に孤独だった。せめて誰かにそばにいてもらえたら、いやそれは違う。

仲の良い友人に電話してみても全く気分なんて晴れなかった。つまり私の抱えた問題を解決しない限り、何をしたって誰といたって楽しいわけないのだ。

明日は間違いなく、デートの約束はした。今日連絡は来るのだろうか。そわそわという言葉がピッタリなほど落ち着かず過ごしていたらようやく夕方に、明日は予定通り会えそうかとのメールがきた。会いたい時だけ連絡が来るなんて、まるで無料のデリヘルだ。

私が気乗りがしないのは風邪のせいだろうか。いやそうではない。まだ気持ちの整理がついていないからだ。

なんにせよまだ体調は万全ではない。とにかく断らなければいけなかった。メールで断ろうと文をあれこれ考えたが、謝罪なので誠意を持って電話をすることにした。本当はただ電話がしたかっただけだったのに、頭の中で謝罪なのだからと何度も言い訳した。

最初は電話にでなかったショウ君だがすぐに折り返してくれた。彼は出張先の横浜に向かう新幹線の中だった。

私はまず言った。謝りたくて電話したと。その一言で、明日は会えないのだと悟った彼はがっかりしていた。しかし、その理由が風邪だけではないことを私は伝えた。

「まだ心の準備ができていない」

ショウ君は私の言葉の意味がよく分からないようだった。私はもう恋の駆け引きとやらはせずに正直に素直な気持ちを伝えることにした。

「まだ心の準備ができていない。だって身体だけしか必要とされてないのかなって」

私はショウ君ともっと普通の話がしたかった。普通のデートがしたかった。肝心なことは何も話さない関係で、私は彼のことを何にも知らないままだった。

名前の漢字も苗字も。出身も家族も、恋人の有無も。もしかして、既婚者なのかもしれない。