父は古い考えで婚期にうるさく、もう二十代も終わろうとする私に、次々と縁談を持ちかけた。自分勝手な父と暮らし、男性不信の私は結婚する気などサラサラなく、その度にけんかになった。そのうち私は家を出て自立したいと考えた。

八尾を出て、どこへ行こうか……大阪市内では近すぎる、奈良は母がいるらしいし、京都はしきたりがあって住みにくそうだ。……神戸、そうだ! 神戸にしよう。港があって、海に開けている神戸に、私は希望が持てた。

あちこち求人を探してみたら、同じマスコミで小さな神戸日日新聞社が、ちょうど秘書を募集していた。私にはもう秘書しかできる仕事はなかった。それに、本腰をいれて頑張ったせいか、やりがいがあり、今では秘書の仕事を天職とも思っていた。私はすぐ応募をした。面接を受け、七年秘書をしてきたキャリアが認められ、運良く受かった。ここは秘書室長と二人だけの職場だった。

住まいを探したら、こぢんまりしているが、オートロックでセキュリティーのしっかりしているマンションも、すぐに見つかった。何もかもスムーズに決まった。私はS新聞社を辞め、八尾から神戸へ引っ越し、この三月から一人の生活を始めた。それから二カ月たった五月に、神矢と出逢った。

私は一年のうちで五月が一番好きだ。若葉のまぶしいこの季節は、生命に溢れ、輝くばかりのみずみずしさがある。だが、その明るさとは裏腹に、なぜか哀しさをはらんでいるように私は感じてしまう。

生命そのものが哀しいからか? 生まれても生まれても消えてゆく命……それが自然の営み……だからこそ、今を精一杯に輝くように生きよう! そう心を鼓舞させてくれる五月が好きだ。

そんな五月に神矢と出逢った。

あとから想ってみても、あれはまぎれもなく運命の出逢いだった。

※本記事は、2019年6月刊行の書籍『愛』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。