第一章 青天霹靂 あと377日

二〇一六年

三月十日(木)曇−雪

昼ごろから降りだした霙(みぞれ)が、午後には雪に変わった。もう今年は降らないものと思っていたが、きっと、母が見る最後の雪になるのだろうかと思えば、つい感傷的になってしまう。

「毎年、冬の終わりに、こんなふうに雪が降るでしょ。この在庫処分の雪が降り終わったら、次は春が来るからね。もうすぐ春だよ。今年の桜は早く咲くといいね……」

その時、「そうだ、いつか……」と、母が言った。やはり、そのあとは聞くことができなかった。何か昔の想い出を話そうとしたのか、それとも先の望みを言おうとしたのか、あるいは無意味な言葉を口ばしってしまっただけなのか……。

詮索するも詮なく叶わぬ事なれど、そんな意味のない一言でも、母の言葉は全部覚えておきたい。いつかきっと、そうしたたわいない言葉さえ発する事が叶わなくなるのだろうから。