この国のショービジネス界には、魅力がない、期待も持てない。
友達のDJたちと話していても、皆こんな認識を持つ奴ばかり。
実力よりもルックス、アーティストよりもプロダクション。

『おいおい、ちょっと違うんじゃないの?』それが、日本の芸能界。
自由な環境も、満足に与えてはもらえない。お金が全て。

どこの国のショービジネスでも、基本的には「お金」なんだろうけど、ウェイトを置くバランスが、かなり違っている。それが現実。

翔一も、確かにそう思ってはいるけれど。
そのうち、あのUSAグラミーアワードで、賞を取る日本人がでてきてくれないかなぁと、密かに期待している。

NULLSの階段を2段飛ばしで、駆け上がり路上駐車してあるフィアットまでダッシュで戻ると、そこには香子が居る。そして、

「お帰りなさい」そう言った。

そんな、小さなシチュエーションからでも、彼の体中に充実感があふれる。
フィアットをスタートさせて、自分のお店MyPointsへ向かう。
相変わらず深夜を過ぎてもこの道の渋滞は、収まる気配がない。

しかし、ここからお店へ戻るとき、六本木本通りを通らずに行くことなんか考えられない。
だって足で歩いても、車で走っても、この道は日本で一番楽しく通れる道だから。

ディメンションの前には、さっきと変わらず、コロナビールを握りしめながら、頭を前後に、揺らして赤い顔した白人が、階段に座ってたり、おもいおもいの場所で、くつろいでたりしている。

二人は並んでMyPointsの、重い光の下をくぐった。
彼は香子をDJブースから近い、カクテルカウンターに案内してからDJブースの階段を上る。

ドアを開け山崎に、アルミホイルでまいた20グラム入りの包みを渡すと、
「すぐに半分こにしてきて、少し俺がやっとくから」山崎はヘッドホンを、翔一に手渡して、即座に控え室へ消えた。

彼は、受話器を持ち上げると「ラズィール」をコールする。
片山は、5分と経たないうちにやってきた。

「どうも、有り難うございます。水嶋君に頼むと約束通りで、助かるよ。時間にしても、品物にしても」
片山は、渡された紙袋を覗き込みながら言った。

『半分以上はお世辞だろうけど言わないよりは、まぁ、ましだな』翔一は、そう思いながら、レコードを1枚ずつラックから、引き出す作業を続けていた。