ボサード少佐

「やめろ。怪我をしているんだ」

徳間は兵士を制止すると、自分の腕時計をはずして兵士に渡した。兵士は受け取った腕時計を見ると、黙ってポケットに入れた。徳間は、倒れたボサードを抱き起しながら小声で言った。

「これが、怪しまれずにここを出る最善の方法です。申し訳ない」

そして、ボサードの腕を力強く引っ張って立ち上がらせた。

兵士は悪態をついたが、徳間が渡した腕時計をポケットから取り出し、自分の腕につけると、それ以上、二人を遮ることはしなかった。ボサードに一撃を与えたことで、気が済んだのだろう。

それでも、いつ気が変わって「顔を見せろ」と言い出すかわからない。徳間は足を引きずるボサードを抱きかかえ、門の外へと急いだ。

ボサードは足のふくらはぎを打たれたあと、小さなうめき声をあげて歩いている。
二人は懸命に外を目指して急いだ。

門の外に出ると、中国服をきた若い男が、車のエンジンをかけて待っていた。

中国服の男は、二人が門から出て来たのを見ると運転席から降りて駆け寄り、徳間の反対側からボサードを抱えた。

やっとの思いで助手席にボサードを座らせると、徳間は急いで運転席に回り、車を発進させた。真夜中にも関わらず通りは人が多い。徳間はクラクションを鳴らし続け、人や人力車、荷物を載せた大八車をかわしながら車を走らせた。

連合軍が接収している外難(バンド)の建物に到着した。

徳間は正面入口に車を停めると、助手席に回ってドアを開け、ボサードがかぶっている笠をはずした。そして、ボサードを抱きかかえるようにして車から降ろすと、腕を自分の肩に回し、建物の入口に向かった。