ボサードを抱えて歩いて来る徳間を見て、入口の警備をしていた歩兵が駆け寄って来た。

そして、ボサードの顔を見ると、すぐに大声で応援を呼んだ。建物の入口から、二人のアメリカ兵が飛び出して来た。二人は支えられながら歩くボサードに駆け寄り、徳間に代わって両側を抱きかかえた。徳間は最初に駆け寄って来た歩兵に、風呂敷包みを手渡した。

「ヒズ、ユニフォーム(制服です)」

徳間がそう言うと、歩兵は小さくうなずいた。

ボサードは、そのまま二人の兵士に両脇を抱きかかえられ、建物の入口に向かって歩いて行った。その後ろ姿を徳間が見ていたところ、急に立ち止まり、後ろを振り返った。

ボサードは両脇を抱える二人の支えを振りほどくと、一人でゆっくりと徳間に向かって歩き始めた。徳間は急いで駆け寄った。

ボサードは、そばに近寄った徳間と向かい合うと、右手を差し出し、握手を求めた。
「サンキュー。ルテナン・トクマ」

徳間はボサードの手を握ると黙ってうなずいた。
二人は手を握ったまま言葉を交わした。

「いつ日本に帰ると言ったかな?」
「明日です」
「そうか。それではお礼もできないな」

ボサードは残念そうに眼を伏せたが、すぐに顔を上げて言った。
「君は命の恩人だ」

ボサードの言葉に、徳間は黙ったまま小さく首を振った。

ボサードは力を込めて徳間の手を握ると、そっと手を放した。その瞬間、体に激痛が走り、ふらりと倒れ掛かった。徳間がとっさに腕を取って体を支えると、いつの間にかそばにいた二人の兵士がボサードを両側から支えた。

ボサードは「やれやれ」という風に首を振り、歯を見せて笑うと、支えられたまま建物の入口に向かって、ゆっくりと歩き始めた。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『コール・サック ―石炭の袋―』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。