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徳間(とくま)は終戦を海軍兵学校で迎えた。一度も戦地に行くことなく、終戦後は海軍省の解体手続きにたずさわった。

九月になったある日、徳間はGHQの理財係に書類を届ける「使い」を命じられた。書類が入った箱は二十箱以上あり、海軍省がある霞が関から、GHQがある丸の内まで、二人の部下と共にトラックで運んだ。

このとき、徳間はまだ海軍の開襟の制服を着て、将校だとわかる肩章をしていたが、部下の二人は制服ではなく、白いカッターシャツに普通の黒いズボンという服装であった。

トラックがGHQの正面玄関に着くと、徳間は英語で書かれた書類のリストを入口の歩兵に差し出した。歩兵は銃を肩にかけたまま、書類とトラックに積まれた箱の山を見て、「裏にまわれ」と追い払うように手を振り、裏口に向かうよう指図した。

敗戦国の将校は、勝戦国の歩兵よりも立場が弱い。徳間は歩兵の指示どおり、トラックを裏に回し、「荷物搬入口」と書かれた地下に通じるスロープを降りる。

そこには別の歩兵が立っていて、荷物を降ろす場所を指図した。徳間と二人の部下は、歩兵が指示した場所に書類の箱を降ろして積み上げた。

終戦の年、一九四五年は残暑が厳しく、九月になっても暑い日が続いていた。GHQが接収している建物の地下は風がなく、とてつもない蒸し暑さで、トラックから箱を降ろす間、徳間と二人の部下の顔や頭から汗が吹き出し、書類を入れた箱にポタポタと流れ落ちた。

「受取書は検品して渡す。正面入口から入って、そこで待て」

徳間たちの汗だくの作業を無言で見ていた歩兵は、きちんと並べて積み上げられた箱の山を見ながら命令口調でそう言った。徳間は二人の部下をトラックで霞が関に帰すと、自分は正面入口に戻った。

「受取書をもらうので、中で待たせてもらう」

徳間は歩兵にそう言って中に入ると、制帽を脱ぎ、入口のすぐ左側にある長椅子に座った。制帽は自分の膝の上に置く。