彼は、香子が選んでいる間に、この店に来たついでの買い物をした。ローリングペーパーを1ケースに、スクリーンを1つ、Mサイズを選び、お金を支払った。

このお店の従業員は、何人いるのかな? 翔一は、度々来てはいるけれど、同じ従業員の顔を、2度見たことがない。

『まぁ、そんなもんかな』なんて思いながら。ケースの中を、真剣な目をして覗き込んでいる彼女の横顔に、自分の顔を近づけて、やわらかい声でささやくように「どんな感じ?」と、訊いてからもう少し声のヴォリュームを絞って、「先に訊いとくけれどこの中に、ふさわしい物がありますか?」

よく考えてみれば、全く必要がなくて使い方さえも、よくわからないような物の中から、いきなり選べと言われても『まいっちゃうでしょ』そう思って、訊いてみたんだけれどその心配は、不要だった。香子は、残る最後の選択を決めるだけだった。

「ねぇ翔ちゃん、最後はやっぱり翔ちゃんに、決めてほしいの」

香子はそう言って、ケースの一番下の段に並べられている品物を1つ、それは細かくて、ち密な彫刻が全面に施され、とてもいい具合に杢目の入った品物。それともう1つ、似たような形をしてるけど、最初の物とは対称的なデザイン。

表面は、滑らかにシェイプされている。単純な曲面を組みあわせて重みのある質感を主張させている。表面から、銀色に輝く金属的な光を放っている品物。

香子は、その2つに絞った品物を翔一に伝えて、残された最後の選択は、彼に引き継いでもらうことにした。今は、肩から力を抜いて彼の選択を、リラックスして待っていた。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。