第一章 注射にしますか、お薬にしますか?

無念! 二刀流でやぶ蚊に敗れたり​

自慢するのではないが、オイラはチョット「あわて者」である。

釣りに行く時、忘れ物をする。持参する必需品は決まっているから、きちんと用意しているのに、車に積み忘れるのだ。

四国・足摺へ二泊の予定で釣行した時、財布を持たないで出掛けてしまった。

金は無論、カードまで財布の中だからお手上げだった。この時は釣友から借りて凌げたが、二泊三日の釣りをするのに、着替えのパンツを忘れて大騒ぎをしたこともある。

磯靴(いそぐつ)を忘れた時には困った。友達から借りる訳にいかない。誰でも自分用しか持っていないからだ。磯の岩は海草が生えて滑る。磯靴を履(は)かないと釣りどころではない。転倒したら大怪我に繋 つながる。流石(さすが)にこの時は慌てた。

気が付いた時にはもう宇和島を過ぎていて、宿毛市(すくもし)の釣具屋で磯靴を買うしかなかった。

国道添いの古い釣具屋を見つけ飛び込んだが、メーカー品は三万円以上もする。

滑り止めソールを固着した量販品を見つけたが、値札が付いていない。店主と思しきオヤジに「磯靴を忘れて来た、これいくら?」と聞いたら、

「それはお困りでしょう、七千円にしてあげます」と好意的だ。感謝感激、礼を言って購入した。

二日の釣りを無事終えて帰り道、宇和島まで帰って、魚を冷やす氷の注ぎ足しのため、釣具屋に立ち寄った。

七千円で買った磯靴が、何と三九八〇円の値札を付けて棚にある。

釣友が気付いて、「朕茂チャン、二足買えるよ」

オイラはすっかり不機嫌になった。

一週間ほどして、岡山市で安いと人気の「釣り具屋」に行ったら、同じものが、二九八〇円で売られていた。

「……」

それ以来「磯靴を買う時には朕茂に聞け」と言われ、釣りクラブでは「磯靴コメンテーター」という重要な役職名を頂き、職務遂行(しょくむすいこう)に邁進(まいしん)しておるところである。