第一章 注射にしますか、お薬にしますか?

ドクター朕茂ちゃん誕生秘話

昭和二二、三年、オイラが四、五歳の頃、田舎が一番賑にぎやかだった。近所に一杯子どもがいた。疎開(そかい)していた子も含めて、赤ん坊から青年まで、県道を挟んだ小さな集落に沢山の子どもがいた。学校は満杯で増築し、赤ん坊の泣き声が家々から聞こえ、物干し竿にはおしめがはためいていた。

近所に二歳年上の女の子がいた、カズちゃんである。その子が、ままごと遊びのリーダーだった。他にオイラと同年の女の子が四人、男はカズちゃんの弟ヨシカズとオイラの二人だった。

オイラはお父さん役で、

「朝ご飯ですよー」。その次は「お父さんは会社へ行ってください」

納屋(なや)の方へ行っていると、「夕方になったから、お父さん帰ってください」

晩御飯の後は、「子どもはここ、お父さんとお母さんはこちら」とリーダーの指図で筵(むしろ)の上に寝転がった。「お父さんはお母さんに手枕をしなさい」と、全ておしゃまなカズちゃんの言う通り。

無論お医者さんごっこもした。

オイラが院長先生、婦長のカズちゃんが「お次の方──」と呼ぶ。