「じゃあ、電話待ってるね」そう言って、片山からの電話は切れた。翔一が電話してる横で、少しずつ増えてきたダンスフロアーのお客を相手に、選曲をしていた山崎が、片耳にヘッドホンをあてながら「僕も、少しオーダーさせてもらっていいっスか?」そう言った。

「人の電話を聞いてんじゃないの、ちゃんと仕事をしろよな」と言って翔一は、山崎を睨んだ。目は確かにきつくなってたが、顔全体は笑ってる。

山崎は、自分の額を手のひらで1度、ペシッと叩いて舌を出した。それを見て翔一は「ばーか」目から、険しさを消す。そして頭の中では、こう考えていた。

「そろそろ皆、手持ちのクサ(マリファナの隠語として、よく使われる)が、なくなってくる頃だな」

翔一は、受話器を再度持ち上げボタンをプッシュする。コールが2度鳴り3度目で繫がった。

「もしもし、翔一だけど」

自分の名前を告げると、受話器の向こう側で応対した女性に代わって男の声がした。

「もしもし、おつかれっス」

この声の持ち主が、翔一と組んでマリファナの密売をする仲間、名前を鷲尾新二という。翔一との付き合いは、六本木の隣街にある広尾小学校時代からの付き合い。

良く言えば幼なじみ、悪く言えば腐れ縁。どちらかと言えば後者のほうが相応しい。

「そろそろ、次のオーダーが入ってきだす感じだね。さっき1件、100以上っつうことでオーダーが入ったよ」

翔一は、ついさっき入ったばかりの注文を、新二に話す。

「じゃあ、今回はどのぐらい持ってこようか?」

新二は、翔一に訊いた。

「俺のほうでは、300(グラム)ぐらいは出ると思うよ」
「それなら今回は、500持ってこようか」

新二が言った。

「そんなもんでいいかな。それでねぇ今回、先方から確実に手に入る日にちを、なるべく早く知らせてほしいって言ってるんで、予想がついた時点で連絡ちょうだい。相手はそのときまでに、きちんとした数量を出しておくって言ってるから」
「大丈夫だよ明日の夜までには解ると思うよ、そしたら翔ちゃんのところへ連絡入れます」
「OK、じゃあよろしく」

翔一は、その言葉を最後に受話器を戻した。

彼、水嶋翔一という男には、2つの顔がある。1つはDJとしての顔、もう1つは六本木で、マリファナを密売するプッシャーとしての顔。