セットリストNo.1(第一章)

4 Square Biz–Teena Marie

時間は、そろそろ22時になろうとしている。お店の中にも、段々と人が増えてくる。

「んじゃ山ちゃん、2曲目に、スローナンバーをかけてフィニッシュしといて、あとは俺がやるから休憩に入っていいよ」

そう山崎に伝えてから、彼はDJブースの控室に入っていった。ジーンズのポケットから真鍮製のパイプを取り出して、左手に持ち、右手に持ったライターの火を、つける。

パイプからのびる細い吸い口を、口にくわえて、ライターの火を、パイプの火口に入れる。パイプの中には、すでにセットされていた淡いグリーンのマリファナが、吸い込んだライターの火にあぶられて真っ赤に燃える。

火口から、吸い口までのびる真鍮製の細い管の中では、火口で燃えたマリファナの煙が一気に吸い込み口から、彼の肺一杯に、充満する。そして息を止める。限界まで。

その行為を、3度も繰り返す頃には、スピーカーから、はじき出される全ての音達が、体の中にグッと入り込んでくる。ヴォリュームを、3レベルぐらい上げたように錯覚する。

彼が、控室からブースへ戻るとダンスフロアーで、静かに飛び交う原色の光に目を奪われる。『素晴らしく綺麗だ』感動すら覚えるほどに。ブースからの視界は異次元的な風景。それらの全てが、彼のツール。

それらを自由自在に、操ることが彼のお仕事だ。そのことを思い出した彼は、ラックに収まったレコード達の中から、今夜の仕事をスタートさせるノリを、ピックアップしターンテーブルにのせ、針を置く。

今夜、彼の時間はここから始まる。ダンスフロアーには、チークを踊るカップルが何組かいるだけ。ターンテーブルにのせた曲を山崎が、フィニッシュに選曲したスローナンバーにかぶせてフェードインさせる。