だとしたら、貴女はお母さんを厳しくも感じてしまったかもしれませんね。それが、今話された夢の内情じゃないでしょうか? まっ、僕の分析が正しいかどうか、貴女が判断されたらいいですよ。今夜あたり、お母さんが、また夢にでてきて、今度は優しくしてくれるかもしれませんよ」と言って、柚木はニッコリと笑った。

「はい。ありがとうございます」と、優子も微笑んだ。柚木はまたドキッとした。

「じゃぁ、また来週、金曜日でいいですか?」
「はい。よろしくお願い致します」
「では、今日はこのくらいで」と、柚木は優子に会釈をした。

優子が出て行ったあと、柚木は、ふんわりとした優子の微笑みを想い返し「ハーッ」と溜め息をついた。診察室を出て、薬をもらい、帰る道すがら、優子は何だか心が浮きたつのを感じた。

帰って、優子は母に、入江と別れると告げた。

「圭一郎さんと別れる!? 優子ちゃん。貴女、それで、どうするつもり? もう二十七なのよ。このあと、誰とも出逢えなかったら、貴女、どうする気?」
「どうもしないわ。華道を続けるわ」
「お父さんと約束したじゃない!」
「あの時は、もう入院する直前だったし、お父さんを安心させたかった。それに、私自身、自分の本当の気持ちをよくわかっていなかったわ。……お父さんがあんな死に方をして、私、色々考えたの。人生は一度きりだから、後悔のないよう、自分の気持ちに正直に生きようって思ったの」
「あの人が亡くなって……何もかも変わってしまったのね。私はもう、生きる気力もないわ。あの人を心から愛していたのよ」と、宙を見るような目をして真弓は言った。

「わかってる。お母さんがどれだけ、お父さんを愛してたか、私よくわかってる。だから、尚のこと、入江さんとは結婚できないの。私、彼を愛していないの」
「私は夢を見ていたのね。……もういいわ。わかったわ。優子ちゃんの好きなようにしなさい。でも、これから先に、本当に好きな人と出逢ったら、きっと結婚してね。お願い」

真弓は、娘の顔をジッと見つめた。

「えぇ。お母さん、ありがとう」と言い、優子は母の手を握った。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『追憶の光』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。