職場は、家庭でも学校でもありません。本人のプライバシーや人権にも関わりますから、はっきりしないうちから、対応はできませんし、求めることもできません。

昨今は、グレーゾーンという言葉もありますが、発達の凸凹が、明らかに障害とわかる人から一般の人までグラデーションのようにあり、判断の難しい障害です。そのため、あいまいな印象と、誤解や不安を与えやすいと思います。職場で起きている人間関係の事実と、働くことと発達障害、これら一連のことをどのように考えていったらよいのか探っていきたいと思います。

本書では、職場で出会う発達障害かもしれない人たちのことを、「発達障害の傾向がある人」と呼ぶことにします。発達障害の傾向がある人にも周りの人にも、どちらかに肩入れする話ではありません。両方の人たちの悩みや苦しさには、人間関係的な閉塞感を感じ、少しはオープンに考えることができ、ともに、病まずに、生きていくことはできないものかと思っています。

※カサンドラ症候群

カサンドラ症候群のカサンドラは、ギリシャ神話に出てくる王女の名前である。太陽神アポロンに愛され予知能力を授かるが、その予知能力でアポロンの愛が失われることを知り、アポロンを拒絶する。

それに怒ったアポロンは「カサンドラの予言は誰も信じない」という呪いをかける。カサンドラは真実を知って伝えても、誰にも信じてもらえなかった。真実を言っても信じてもらえないところから、カサンドラ症候群の名前がついた。

カサンドラ症候群は、主にアスペルガー症候群(現在は自閉症スペクトラムと呼ばれている)のパートナーと情緒的な相互関係を築けず、精神的身体的症状を呈している状態をさしているが、1990年代以降アメリカで言われるようになり、日本においても認識されるようになってきた。パートナーのつらさが周りの人にわかってもらえないことから、カサンドラ症候群と名づけられた。しかし、アスペルガー症候群のみならず発達障害の人と接する時の悩みは、第三者にわかってもらえないということは共通していると言える。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。