発達障害の人を責めるとかそういうことではなく、事実として、職場の中で発達障害の人も発達障害の周りにいる人も、同じようにメンタルクリニックを受診してきます。発達障害に注目が集まっていますが、周りの人のつらさはあまり知られていません。メンタルクリニックを受診するに及んでは、発達障害があってもなくても、患者さんとして違いはありません。

もうひとつ、発達障害の人への対応や配慮の仕方についてですが、それらについて知ることは発達障害者を障害者雇用として採用した場合、就労支援として、また合理的配慮として重要なことです。しかし、職場で発達障害かもしれないと思ったとしても、決めつけることはできませんし、診断もできません。

また本人も、自覚がない場合もありますし、そうかもしれないと思っていたとしても、はっきりと理解することはできません。問題が発生し始めた時は、発達障害だと認めることはできず、その対応を取ることもできません。また、発達障害の人も周りの人も、同じように採用された一職員です。仕事をしていく中で、発達障害かもしれないと思っても、特別に配慮したりはできません。

職員として同等ですから、周りの人も発達障害かもしれないと思っても、業務上の支援をするような立場にはありません。発達障害への対応についてたくさん書かれていると、そのようにしなければならないという気持ちになってしまいますが、そうかもしれないことへの対応を求めるのは、無理があり、職員として対等ではなくなります。

たとえば、冷え症かもしれない女性社員がいるので冷房の温度を高く設定する。心臓病かもしれない社員には荷物を持たせない。冷え症なのか、心臓病なのか決められないのに、暑がりの社員、荷物を二倍持たなければならない社員はどうしたらよいでしょう(まぁ、冷え症か心臓病かは、聞けばわかりますけど……)。

発達障害への対応についての提言は、そもそも前提が違います。発達障害と診断された後と、発達障害かもしれない、わからないという時点での問題は、実際の現れ方と困り方が違います。

発達障害と診断され精神障害として認められれば、社会的にも障害として認められます。その時点ではじめて、本人と職場の合意をもとに、どのように対応していくか考えることができます。