第1章 「発達」と「障害

発達障害発達心理学

発達障害の話をしていて、発達心理学の説明を求められました。長く医療現場にいますと少し意外な感じもしましたが、そうか、発達障害も発達心理学も同じ「発達」だからそんなふうに聞かれることもあるのか、と思いました。

発達心理学は、たくさんある心理学の分野のひとつで、発達障害は医療や療育(保育と教育が一緒になった実践領域)、福祉の対象となる障害名です。心理学には発達心理学のほか教育心理学、社会心理学などいろいろありますが、発達障害に医療や福祉の現場で対応しているのは臨床心理学です。

臨床心理学は臨床心理士が、検査、治療、研究に当たっています(現在は公認心理師に変わってきています。臨床心理士は長く臨床心理士資格認定協会の認定資格でしたが、医療機関で働いている臨床心理士の仕事を診療報酬に位置付ける意図もあり、2015年公認心理師法が成立し2017年に施行、公認心理師という国家資格になりました。すでに医療機関で働いていた臨床心理士も順次国家資格を受け公認心理師資格を取得していますので、今後臨床心理士は公認心理師に吸収されることになると思います)。

では、発達心理学と発達障害は関係ないのかといわれるとそうでもないのですが、おもには子どもの時の発達状況を見て発達の障害がないのかどうか考える基準にはなります。発達心理学の中では発達障害の概念はもっと広く、一般的な定型の発達はもちろんですが、障害分野でも脳性まひや身体障害、知的障害、そして社会性の発達に関する自閉性の発達障害、子どもの発達に関し幅広く見ます。

いま、精神科領域における発達障害、それも大人の発達障害について考えようとしているので、少し焦点が異なります。大人の発達障害の判断にも、子どもの時の発達の状況は重要なポイントですので、発達心理学と関係ないということではありませんが、実践領域は異なります。

少し、発達心理学についてふれてみましょう。20世紀の初めまで児童という概念はなく、小さな大人と認識されていました。

その昔は日本でも、子どもは幼児を過ぎれば大人で、7歳までは神のうち、7歳過ぎれば労働力として数えられました。しかしその後、児童は小さな大人ではなく、成長、発達に適切な配慮が必要な存在であると認識され始め、児童の発達について研究がなされるようになります。

それに続き、人の一生、生まれてから死ぬまでどのような心の発達をするのか研究が進みます。子どもは子どもとして考え、処遇されるべきだし、子どもの時からすでに心理的な発達があり、それは大人まで続くのだから人間一生涯において考えるべきだと考えられるようになりました。

教科書によく出てくる研究者としては、S・フロイト(1856‐1939)はじめ、J・ピアジェ(1896‐1980)、L・ヴィゴッキー(1896‐1934)、E・H・エリクソン(1902‐1994)などがあげられます。これらの研究者はおもに20世紀の前半で活躍しました。

考え方としては、人の一生はその時期に応じた変化や発達があり、その時々心も変化、発達をするというものです。研究者によって多少違いますが、年齢で区分し発達段階としました。

発達段階を最初に提唱したのはR・J・ハヴィガースト(1900‐1991)と言われていますが、その発達段階によると、乳幼児期、児童期、青年期、壮年期、中年期、老年期となっており、その発達段階での発達課題が示されています。概要を見てみますと、

・乳幼児期(生後から5歳)歩く、固形物を食べる、話す、排泄できる等
・児童期(6歳から12歳:小学生の時期)体を使って遊ぶ、仲間と遊ぶ、一般的な読み、書き、計算ができる等
・青年期(13歳から22歳:中学生から大学卒業くらいの時期)第2次性徴による体の変化を受け入れる、男性、女性としての社会的役割を達成する、出生家族から情緒的に独立する、経済的独立の目安を立てる等
・壮年期(23歳学業終了から40代前半)配偶者の選択、結婚生活の学習、子育て等・中年期(40代、50代)大人としての社会的責任を果たす、一定の経済水準を確保、維持する、加齢の変化を受け入れる、老親の変化に対応する等
・老年期(60代以降)老化の適応、退職の適応、配偶者などの死に向き合う等

研究者によって発達段階の名称や年令区分は若干違いますが、大筋では、このようなものです。その発達段階の発達課題を達成していくことが、昔は正常発達と呼ばれていましたが、現在は「定型発達」と呼ばれています。達成しなければ正常ではないという考え方が現実的ではなく批判的にとらえられてきたからだと思います。

[図表] ハヴィガーストが提唱した発達段階と課題
※本記事は、2020年9月刊行の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。