エコノミークラス(ロングフライト)症候群に伴う脳梗塞

エコノミークラス症候群という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。発症にいたる典型的な状況が、飛行機などで身体を動かすことなく長時間座ったままでいると、足の静脈にうっ滞が起こって血栓ができることがあるということから、この病名がつけられています。

足の静脈にできた血栓が剝がれると、通常は肺の血管に詰まり肺塞栓症という病気を引き起こします。これは血栓が足の静脈-下大静脈-右心房-右心室-肺動脈と流れていくからです が、もし心房に小さな穴が開いていると、血栓が右心房-左心房-左心室-大動脈-脳の動脈と流れて、脳梗塞を生じることがあります。

このように生じる脳梗塞を「奇異性脳塞栓症」と呼びます。 心房に小さな穴が開いていることは珍しいことでしょうか? 実は胎児は心房に卵円孔という穴が開いていて、右心房から左心房へ血流が流れています。

この穴は生まれた後に塞がるのですが、成人でも20%程度は塞がらずに残っています。これを卵円孔開存といいますが、この穴はほとんどの場合は5㎜以下と小さいもので通常は塞がっています。咳や息をこらえたりしたときのみ穴が開くので、通常の心臓超音波検査などで発見することは困難です。このような人は脳梗塞を生じやすいのです。

患者さんの心臓内に血栓が無いか、弁に異常が無いかは、治療方法に大きく関わります。心臓内血栓のできやすい場所は、通常のエコー検査(「経胸壁」で行う)では観察が困難です。そのため、細いエコー機器を飲み込んで食道から検査を行う「経食道」の必要が出てくるのです。

この検査では、右心房に空気で作ったバブルを注入して、それが左心房に通り抜けるのを目で確認することができれば、穴が開いていると判定しています。

脳梗塞を発症したものの、なぜ脳梗塞になったかはっきりしない場合、経食道エコー検査を行い、卵円孔開存について調べます。見つかった場合、足の静脈に血栓ができていないか、肺梗塞を起こした後がないかについても調べて、再発予防法を考えていきます。

肺塞栓症も脳梗塞も恐ろしい病気です。長時間の立ち仕事、座り仕事では、足に血栓を作らないよう、適度に足を動かし、水分をしっかりとるようにしてください。