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認知症予防に関して示唆に富む所見を示した「ナン・スタディ」

人における認知症の死後解剖を含めた、大々的な前向き調査の代表として、米国の疫学者のデヴィッド・スノウドンが著した『100歳の美しい脳』という著書が知られています。

この調査研究は「ナン・スタディ」(修道女研究)(The Nun Study)として有名です。アルツハイマー型認知症の解明に手をさしのべた修道女たち678人の献脳が、高齢での生き方に示唆に富んだ知見を提供してくれました。

この調査の特長は、生活環境が同一の修道女を対象にしたものであることに加え、生前の認知機能と剖検脳の神経病理学的所見とを対比している点にあります。

そして、若年期の過ごし方次第で、老年期のアルツハイマー型認知症の発症を遅らせること、また最後まで充実した人生を歩むことが大切であることを教えてくれました。

脳にアルツハイマー型認知症の病変が起こっていても、認知症は必ずしも発症しない、すなわち、脳解剖時の病変と発症との間に乖離が認められるという調査結果は、認知症予防に関して非常に示唆に富む所見といえます。

頭をよく使って、脳を遊ばせないようにし、「認知予備力」(知の貯金)を多く保っておくと、認知症の発症を遅らせる可能性が増すということになります(図32)。

 

また最近、脳に精神的刺激を与えると、新しい神経細胞が出現するという報告もあります。

多くの人が日常的に経験する風邪を例にとってみますと、元気いっぱいで仕事に精を出しているときには体の「免疫力」が高く、風邪のウイルスに感染しても風邪の症状が出ないのと同じです。つまり、「認知予備力」が十分であれば、例えば脳に認知症の病理学的変化を来していても認知症を必ずしも発症しないものと考えられます。

認知症は老化を基盤にしてその上に発症する病気ですから、完全に治癒することは望めません。従って脳に認知症の病理的変化を来した場合、その発症を遅延させることができるように、前もって予防しておくことが効果的な対処法と考えられます。