第3章 脳梗塞のタイプ

◎その他の脳梗塞

前記の3病型に該当しない4つ目(その他)の脳梗塞として、血圧が急に下がったときなど、脳へ行く血液が減少するために起こる「脳血行力学性(動態)脳梗塞(境界領域梗塞)」、くも膜下出血に続発する脳血管れん縮、エコノミークラス症候群、動脈壁解離、脳静脈洞血栓症、もやもや病、がん(癌)、大動脈炎(血管炎)、播種性血管内凝固症候群(DIC)や抗リン脂質抗体症候群などの血液凝固異常、ミトコンドリア脳筋症、線維筋形成不全などの特殊な原因で起こる脳梗塞があります。

脳血行力学性脳梗塞
血行力学性機序脳梗塞のうち多いのは、頸部あるいは脳主幹動脈の狭窄あるいは閉塞のため、脳循環不全(潅流圧低下)を来すことによるものです。

一方、脳循環不全を起こす全身性因子として、低血圧症、心不全、血液粘度変化(貧血など)、および低血糖などがあります。稀ですが、血糖降下剤薬(インシュリン注射を含む)の使用者が脳卒中を思わせる片麻痺を来すこともあります。

血行力学性脳梗塞では、それぞれの動脈の灌流領域の境界域に梗塞を生じることがあります。このような場合、境界領域梗塞(border zone infarction, watershed infarction)(図1)や終末動脈領域梗塞(terminal zone infarction)と呼ばれます。なお、境界領域梗塞には、血行力学性機序に加えて塞栓性機序の関与も示されています。

これは70代前半の男性の症例です。ろれつ困難と左下肢筋力低下にて発症した。翌日来院。一過性脳虚血発作の既往あり。拡散強調画像DWI(図1左)にて、右中大脳動脈--後大脳動脈境界領域および深部の終末動脈領域に小さな高信号病巣の多発を認める。T2WI(図1右)でも同部位に高信号を認めるが、陳旧性病巣も描出され責任病巣の判定が困難。頸動脈撮影像(図1下)にて右内頸動脈起始部に狭窄性病変を確認。

[図1]ラクナ梗塞(左図と右図は別の患者さん)のMRI 拡散強調画像

症候は一過性であることが多いのですが、何回も繰り返すと非可逆的な脳梗塞発作に移行する可能性が強いので要注意です。

症候は、下図に示した内頸動脈系の梗塞か椎骨脳底動脈系の梗塞かによって異なります。内頸動脈系では、片麻痺(運動、感覚)、言語障害(失語症)、視力・視野障害、てんかん(けいれん等)などです。椎骨脳底動脈系は多様で、内頸動脈系症状に加えて、めまい、平衡障害、失神、複視、悪心・嘔吐などが現れます。

[図2]鎖骨下動脈盗血症候群を来す機序を示す模式図(本文参照)

特殊な病態として、鎖骨下動脈盗血症候群(図2)といって、 左の鎖骨下動脈の起始部に狭窄や閉塞を来すと、左手の激しい運動などで脳へ行くはずの血流が逆行して鎖骨下動脈に流れ込む(盗血)ために、脳血行不全となり、例えば失神を来すというものが挙げられます。

※本記事は、2020年1月刊行の書籍『脳梗塞に負けないために 知っておきたい、予防と治療法 』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。