第1章 認知症の改善のために行った工夫

6 テレビ

また、安倍総理大臣とトランプ大統領に関心を持ちました。100歳の時、安倍総理大臣から大きな賞状と記念品の「寿」の彫刻が入った銀杯をいただいたので、テレビに安倍総理大臣が出ると、いつも、「あの安倍ちゃんが出てる」と喜んでいました。

また、トランプ大統領がテレビに出ると「金髪なので赤いネクタイがとても似合ってかっこいい。でも、ちょっと怖そうね。以前のオバマさんの方が感じがよかった。安倍ちゃんは黒髪なので赤いネクタイは似合わないよ。青がいいね」とよく言っていました。

部屋の壁の真ん中に安倍総理大臣からの賞状を貼り、棚には銀杯を置きました。毎日のように、「お母さんはすごい。安倍総理大臣から賞状をいただいたのよ。読んで」と壁から外して顔の前に持っていくと、とても嬉しそうに「賞状 千葉県 石塚フミ殿 大正4年3月1日生まれ 貴殿は□□□、ここに記念品を贈るとともに□□□。内閣総理大臣 安倍晋三」と読み上げました。

読んでいると毎回のように、途中に出てくる言葉「ことほぐ」の所で「『ことほぐ』ってなあに?」と聞かれました。「おめでとうございます、の丁寧な言葉だよ」と言うと、納得しました。

母親が賞状を声を出して読み終わると、いつも、棚の上に置いてある箱を母親の目の前に持っていきます。見て不思議そうに「これなあに?」と聞きます。「これが安倍総理大臣からの記念品よ」と言って、ゆっくりと、内閣総理大臣と書かれた箱のふたを開け、さらに内側にある桐の箱を開け、絹の覆いを外します。

母親はこの間ずっと、興味をもって、中身は何だろうとじっと見ています。銀杯が出てくると「まあ素敵」「どうしてこんな素敵なものを安倍ちゃんが私にくれたの」と喜びます。私は「お母さんが健康で長生きだから安倍総理大臣がご褒美にくれたんだよ」と言うと、「安倍ちゃんに何かお返ししなくちゃー」と言ったような会話がずっと続きました。

毎日のように、賞状を見せては同じ儀式のようなことをしますが、毎回、嬉しそうな顔をしてとても喜びます。最後に母親が、「大切なものだから金庫にしまっといて」と言って終わります。脳の中はとても嬉しい、いい気持ちで生き生きとなっていたと思います。認知症があるので毎日同じようなことで同じように喜びます。