観音経の功徳を力説した点では、後述する岡本かの子(一八八九~一九三九)が筆頭者である。「観世音菩薩なる名によって呼び起される生命力それ自身の偉大なる力が、すべてを善導する」ことを絶対に信じている、と言うのだ(『観音経を語る』昭和17年 大東出版社。前掲⑦ 第九巻 所収)。

ともあれ、法華経にもとづく観音信仰は、死苦の除去という面において女性を中心とした日本人の死生観の一端を担った。いや過去形では終わらない。第14章で取り上げる現代日本のスピリチュアルな死生観にも関連があって、例えば、新新宗教コスモメイト(後、ワールドメイト)の教祖の一人・橘カオルの母はカオルを身ごもった時、観音菩薩が胎内に宿る夢を見た、という。

また新新宗教の中で勢力を伸ばしている真如苑の教主・伊藤真乗の妻(友司)も結婚前に観音を信仰し、真乗自身も昭和8年頃、朝 夕観音経を読誦していた(沼田健哉『宗教と科学のネオパラダイム』創元社 ㉒)とのことだ。観音と生命力とスピリチュアルの「不死」が結びついているのだ (第14章第1節参照)。