翌朝、瑠璃と華音は朝ご飯の支度をしていた。

早乙女家の朝ご飯は、以前から洋食であった。

パンの味にこだわりをもっている真一は、大学の帰り道にあるパン屋さんに立ち寄り、天然酵母の食パンとフランスパンを買ってきて、ほどよい厚さにカットし、クリームチーズを少しだけ薄く塗りトースターで軽く焼いて食べるのが習慣だった。真一は、決まってコーヒーは自分で好みの豆を挽いて、ドリップで人数分淹れた。

瑠璃と華音は、野菜サラダを日替わりでレタス、トマト、キャベツ、パセリ、キュウリ、パプリカ、ピーマン、水菜、ほうれん草、大根、人参などの野菜にハム、ベーコン、ツナ、チーズを使い、飽きない工夫を凝らしていた。

真一は大学に行く服装で下りてきた。コーヒー豆を挽き、ドリッパーを整えペーパーフィルターを丁寧に敷いた。フィルターに満遍なくお湯を一度かけ、コーヒーポットの残り湯を捨てた。

ドリッパーに人数分の挽いた豆を入れ、少しだけお湯を注ぎ、くゆらせた。すると、豊潤な香りが部屋一杯に漂った。

華音はその香りに誘われ、

「お父さん、今日のコーヒーは何?」と聞いた。

「今日は、グアテマラだよ。マイルドで少し酸味が強いが、苦みが少なくてスッキリした味で好きなんだ」

「それじゃ私がカップを用意するから」と華音は棚から出してきた。

「お母さん、遅いわね」

ほどなくして文子が髪の毛を手櫛で整え洗面所に向かいながら、

「遅くなってごめんなさい。お先に朝ご飯どうぞ」と言って顔を洗いに行った。

「お義母さんが席に座るまで待とう」

「待っててくれていたのね。遅くなって、ごめんなさい」「いただきます」と一同そろって手を合わせた。

いつもの早乙女家の朝ご飯の風景だった。

朝ご飯が終わりかけたのを見計らって、真一が口を開いた。

「お義母さん、大学に行ったら、昨晩お約束した件、高瀬くんに相談しますが、よろしいですね」

「真一さん、お願いします」

大学に着いた真一は、医学部のある棟に行き、高瀬純一郎教授室に向かった。

真一は教授室の扉をトントンと叩いた。

「どなたですか? 鍵はかかっていませんよ。どうぞ」と聞き慣れた純一郎の声がした。

「おはよう。早乙女だが、ちょっと時間あるかい?」

「誰かと思ったら、早乙女くんか。こんなに早くどうしたんだ?」

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