第一章 イマジン

その手際の良さを見ていた文子は、「瑠璃、上手ね。この素麺、髷を割らなかったり、ゆで過ぎたりすると台無しなのよね。良く亘さんに叱られたもんよ」と褒めた。

瑠璃は満足そうな顔で、「お母さん、主婦何年やっていると思っているの。いつまでも子供じゃあるまいし、これくらいできて当たり前じゃない」と自慢してみせた。

文子は素麺を食べながら、「美味しいわ。亘さんを思い出すから不思議なもんね。昨夜のブリしゃぶ、今日の西門素麺といい、どういう風の吹きまわしかしら……」と訝った。

二人は食べ終え、文子が食器をもって立とうとしたところ瑠璃は、「お母さん、後片付け私がするから、そのままにしておいて」と言って立ち上った。

「いつも悪いわね」と文子は心なしか元気がなかった。その日の夕方、いつもの時間通り真一は帰ってきた。

今日も玄関で迎えたのは瑠璃だけだった。

真一は靴を脱ぐなり、「お義母さん、身体の調子どう?」と瑠璃に聞いた。

二人はリビングのソファーに座り瑠璃が、「あなた、何かあったの?」と小声で真一に聞いた。

真一は声を押し殺すように、「今朝一番、高瀬くんに、人間ドックで義母が膵臓癌の疑いあり、と言ったところ、彼が『万が一』とつい口走ったんだ。もちろん、悪気があっての話じゃないよ。彼は医者だから診察もしていないのに絶対しゃべってはいけないと思ったんだろう。罰悪そうだった」と瑠璃に話した。

「そう、そうなの。そんなことがあったの……」

二階から文子が下りてきたので、二人は話を途中でやめた。