第一章 イマジン

瑠璃は二人の話が聞こえない振りをして、

「なんか二人で、楽しそうにどうしたの……。晩ご飯の用意できたから、食べましょう」と誘った。

食卓には、かき揚げ、天麩羅に加え、かまぼこ、バイ貝の煮つけ、イカの黒作り、ホタルイカの沖漬けが並んでいた。

「まあ、昨晩、今晩とご馳走ね。私の好きなものばかりじゃない。一体全体どうしたの、瑠璃……?」

「瑠璃、悪いが日本酒あるかい」

「珍しいわね。いつもウイスキーばかりなのに、どうしたの? 以前あなたの友達からいただいた〝別山〟があるんだけど、随分前のものよ」

と言って瑠璃は床下収納庫から取り出しもってきた。

真一は華音に、

「悪いが、おちょこを四つ用意してくれないか」と頼んだ。

「四つ?」

「四つでいいんだよ。華音」

「わかったわ。お父さん」と華音は言う通りにした。 真一は、日本酒の栓を開け、そのままおちょこに注いだ。

「今日はみんなで乾杯しよう」

「なんの乾杯?」

「決まっているだろう。お義母さんの検査が何もないことを願ってだよ」

と真一は訳の分からない理由を強引にくっつけた。

「乾杯」

四人は晩ご飯の料理の味に、

「美味しい、おいしい、おいしいわね」と舌鼓を打った。

家族そろって自宅での晩ご飯が、これが最後だと、そのとき誰も信じてはいなかった。

翌朝、門の外で真一は瑠璃に、

「万が一の話、言っちゃだめだよ」と念を押した。

華音は、いつもの時間に学校に行った。文子と瑠璃は早めの昼ご飯を食べ、高岡セントラル病院にタクシーで向かった。交通渋滞もなく三十分ほどで着いた。