第一章 イマジン

純一郎と真一は同じ高校の同級で親友だった。純一郎は理系、真一は文系を志望した。

「折り入って相談があるんだ。実は俺の義母の一之瀬文子が、人間ドックで膵臓癌の疑いありと書かれた検査報告書が昨日届いたんだよ。それで、精密検査をするための病院を、紹介して貰えないだろうか?」

と真一は単刀直入に本題に入った。

「膵臓癌か! 人間ドックどこで受けたの?」

「病院の名前知らないんだが、俺の家の近くなんだ」

純一郎は目を閉じながら、

「膵臓癌の疑いとなると、ちゃんとした病院がいいな。早乙女くん、お義母さんは、おいくつになられた?」と聞いてきた。

「今度の十一月の誕生日で、八十八歳になる」

「君のお父さんの葬儀以来お会いしていないが、早いもんだな。確か五、六年前、大きなお寺の浄成寺に参列したとき、お見かけした記憶がある」

純一郎は身を乗り出すように、

「言いにくいんだが、人間ドックで膵臓癌の疑いとなると『万が一』のこと考えないといけないな。こりゃ、余計なことしゃべったな。取り消すよ。病院の件だが、俺の弟の高瀬純二郎が高岡セントラル病院の副院長をやっていて、消化器内科部長をしているんだが、そこでどうだろう。

それに、学会の消化器内視鏡専門医で指導医でもある。あそこなら、病理診断科もあり病理専門医も常駐していて、細胞組織検査も早く確定診断できる。君の家からそんなに遠くないし、ご家族にとっても安心だと思う。どうだろう」と意向を確かめた。

真一は即座に、

「高瀬くん、お願いできないだろうか」と頼んだ。

純一郎は、診察衣のポケットからスマートフォンを取り出し弟に電話した。

電話はすぐに繋がり、

「あー俺、純二郎か。お前さんに頼みたいことがあるんだけど」と慣れた調子で話しかけた。

純一郎は真一に目配せして、

「ここに、早乙女くんがいるんだけど知っているよね。このスマホ、スピーカーにするけどいいね」とスマートフォンをタップした。

「兄貴、あの早乙女さんだろう……」と純二郎の声が聞こえた。

真一の父の葬儀のとき、純一郎夫妻を浄成寺まで純二郎が自分の車で送ってきた。その折、純一郎から純二郎を紹介され、真一は名刺を渡したのを記憶していた。

純一郎はボリュームをあげ、スマートフォンをテーブルの上に置いた。