筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護

(三)てんてこ舞い、夜逃げ、朝逃げ、昼逃げ、大わら

『人工呼吸器装置』導入および『胃瘻』

造設わが家の場合

大学病院というところは、医師を育てる為に、多角的検査が容易に行える条件がきちんと調っているということがよく判りました。当日、夫の担当医、レントゲン技師等それぞれの立場の方々が、一堂に集まりました。私はレントゲン室とガラスで隔てられた隣の部屋で、撮し出されるレントゲンの画像を、判らないながらも、一つとして見逃すまいとにらめていました。

夫の飲み込んだものが、次々に画像として撮し出されました。単なる液体のまま動くもの、次はとろみをつけたものやゼリー状のものなどが、胃の中を通過していく様子がよく判りました。あまのじゃくの私は、画像として撮し出されるものもさることながら、このように身体の細部にわたって間接的に観ることのできる技術面の医学の進歩に大きな感動を覚えておりました。

この時点で、夫の体内にはその前日に地元のT病院で食したお粥が、胃におさまりきらず、胃の外にまだあるのがよく判りました。撮影が終了して、担当医より胃瘻造設(手術で、腹部に小さな穴を開け、チューブを通し、直接胃に栄養を注入する医療措置のこと)の話が出されました。

私のこの撮影への立ち合い要請は『胃瘻』造設への誘導の伏線であったのだということがやっと判りました。

私はその少し前、Eテレで『胃瘻』についての特集番組を観たばかりでした。そしてこの胃瘻造設については、医療当事者の間でも賛否両論があるということも初めて知りました。その時は私は何も知らず、他人事と軽く眺めておりました。

しかし、いざわが身に火の粉が降りかかってみますと、その判断は重いものだということがよく判ると同時に、自分の身勝手さをつくづく反省させられました。そこでこの件は主治医にお願いをして、少しの間宿題として時間をいただこうということになりました。