筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護

命の片道切符

『読売ジャイアンツ原辰徳監督に会いに行こうツアー』 二○一三 秋

(七) いざリーガロイヤルホテルへ

かねがね東海大学創立者の故松前重義総長が『我が東海大学は全学一心』と唱えていらしたその精神が、脈々として今ここに生き続けていると思うと、感無量でした。

待つほどに新幹線組の到着となりました。夫はと見ると、思いのほか元気で、ホテルの中を大きな目を巡らせてキョロキョロしていました。

まるで幼稚園の子供さんが遠足に出かけたときのような様子です。久しぶりに外の空気に触れて珍しかったのでしょう。

娘は、会場に私を見つけるや否や「新幹線ってびっくりするほど揺れるのよ。お母さん、知ってた」と投げかけてきました。

今までついぞそのようなことは思っても見なかった私は、少し心配になり改めて夫を見ました。

しかし当の心配された主は、訪問主治医角川先生の診察をいつもの様に、神妙な面持ちで受けているので、まずは安心致しました。

 

(八) こんにちは、原辰徳監督

午後六時すぎ、原辰徳監督のご来場との報が入り、慌てて三階の同窓会会場へ、まるで大名行列のようにゾロゾロと出かけました。

一台の車椅子を囲んで、主治医の角川先生、訪問看護師の中森さん、日本ALS協会広島県支部の竹畑さん、訪問看護師管理者の神石さん、わが家族三人の大行進となりました。

待つほどに原辰徳監督のご来場となりました。拍手で迎えられた原辰徳監督は、一通りのご挨拶を終えると、大学関係者に案内され、私たち一行が控えている場においでくださいました。

「こんにちは、原です」

大きな身体の原辰徳監督が、中腰になって、車椅子の夫と視線を合わせ、ニッコリとしてくださいました。

私は監督のこの時の笑顔をとても美しいと思いました。思い切って意を決して夫を連れてきて良かったという思いでいっぱいになりました。

はじめのうちはとんだ闖入者の我々一行に怪訝そうな視線を送っていた同窓会会場のみなさまも、この監督の一声で大きな拍手となりました。