【前回の記事を読む】【闘病記コンテスト大賞作】留守中心配で、ヘルパーを2人お願いするも…「一人は帰りました」

筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護

(三)てんてこ舞い、夜逃げ、朝逃げ、昼逃げ、大わらわ

『ヘルパーの二人体制』ということは、決してお飾りでお願いしたわけではないのです。

今までにも、夫がチアノーゼ現象をおこしたとき、ヘルパーと家族が二人その場にいたのです。ですから一人は訪問医へ連絡を取り、一人は救急隊へ連絡をする。もう一人は、もちろん夫の様子をじっくりと観察しておかなくてはなりません。誰も一分の隙もありません。むしろ三人いても足りないほどです。

これらの経験や今度のことを教訓として、『命を守る』ということはいろいろ多角度の面への気配りが必要なのだということを痛感いたしました。これからヘルパーさんたちにも、きちんと相手がわかるようにじっくりと説明しておかなくてはいけないとつくづく思いました。

『在宅介護』というものは、身体の発する疾病上の諸々の信号もさることながら、もっと患者の立場に立っての心の読み取りをしなくてはならないのだと、とても良い勉強になりました。

育つ心 面白い人間観察

人の心と言うものは、十人いれば正に十色、それぞれにいろいろの表情があるものです。私たち家族は、夫の在宅療養を契機として訪問医師、訪問看護師、ヘルパーのみなさんと大勢の方々にお世話になっています。

これは今まで自分の過ごしてきた教育の世界とは全然違う医療・介護分野の世界です。人というものはある程度自分の活動している分野のことについてはかなり理解の心を伸ばすことが出来ますのに、その世界が全く違ってみると、その背景が見えなく、初めは戸惑うことしきりでした。

しかし、一年、二年とその世界にどっぷりと浸かってみますと、それなりに面白い人間模様が描かれていることが判り、その展開がとても楽しみなものとなってきました。

さすが、そこは人間、『人間万歳』と心から叫びたくなるようなことにもたくさん出逢いました。

夫もこうした素晴らしい人間模様の織り為す中で、娘が『KGB』と渾名を献上するほどの腕の力、観察眼を以って楽しんでいたようで、それが闘病中の大きな良薬となってい るのだろうと思います。

みなさまもどうぞこの記録をKGBになったつもりで、その心に沿って楽しみながらお読みください。