11月26日(木)

手術の翌日

未明に雨の音がしていた。出社のあい子を駅に降ろして、病院へ向かった、その頃、雨はほとんど上がっていた。

8時前に病室に入った。部屋に灯りはなく、ベッドの上は空であった。

10時過ぎにナースが来て、11時頃に集中治療室へ迎えに行く予定です、と知らせてくれた。良子が戻ったのは11時15分だった。さすが、ぐったりしていた。私はすぐに部屋を出され、必要作業終了のあと呼ばれたのは30分後、11時45分であった。

良子は鼻からチューブを入れられ、数本の点滴針が刺されていた。良子は確かに疲れてはいるのだろうが、それ以上に“うんざり”しているように思った。

最初は、9日の退院予定が13日に伸びた。元気な生活をほんの少し味わったら、18日に再入院に追い込まれた。それが26日に退院できると思ったら、その前日に、更に大きな手術をすることになったのである。

「よくがんばったね」と私は言った。良子は無表情だった。

「退院したあとでなくて、良かったね」

これにも良子は反応を示さなかった。

「しゃべらなくていいよ。聞くだけでいい」

良子は指を唇に当て、私に訴えた。水を求めていることは分かったが、水差しがどこにもなかった。

あったはずなのだが、どこかに整理したのだろうか。戸棚を探したが、そこではないと良子は目で示した。彼女は指でナースを呼んだ。来たナースさんは良子の求めを聞き、水差しと受け皿を持ってきて良子が口をすすぐのを助けた。

良子は更に痩せていた。手に触れようとしたら、首を振った。体を動かそうとした。「大丈夫か?」と訊ねると、「動かさなければいけないと言われた」と言った。

私は手伝わなかった。本人の判断の範囲で任せるほかなかった。

1時間ほどいて、夜また来る、と言って立ち上がった。良子はわずかに手を振った。顔は無表情であった。

6時過ぎに駅であい子を拾い、病院へ行った。病室に入ったのは6時半であった。看護師が良子の血圧を測っていた。

「睡眠薬で幻覚を見た」と良子は言った。壁のようなものを目の前に見たというのである。

「それで、睡眠薬を(点滴に加えるのを)止めてもらった」

そのせいだろうか、痛む、と良子は言った。目を閉じて、かすかな呻き声を上げ続けた。私は辛かった。

次の痛み止めの投与は、9時とのことであった。痛むからとやみくもに鎮痛剤を与えるのは、避けなければならないのだろう。1時間余りいて、私たちは部屋を出た。良子は手を振ったが、弱々しいものであった。

陰暦10月15日の月が雲間から見え隠れしていた。

※本記事は、2019年3月刊行の書籍『良子という女』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。