第一章 日本行き、そして帰国

運命のいたずら

何はともあれ、我輩の紹介から始めよう。

我輩はその昔日本から連れてこられた柴犬一家の三男坊として米国サンフランシスコの、とある小さな犬小屋で生まれた。

生まれた年は不明だが誕生日だけははっきりしていて十二月六日。

名前はケンという。当時の飼い主が犬小屋の kennelken(犬、ケン)+nel(寝る、ネル)と覚えていて、バーボンを飲んでほろ酔い機嫌だったのか、「ケンが寝るからケンにしよう」と名付けたと後年お嬢さんから聞いた。ずぼらを絵に描いたような杜撰な命名だ。

米国では大型ハリケーンにすらジェーンとかカトリーナなどラテン語由来の女性名詞を付けているくらいだから柴犬種族の我輩にも大和言葉で「道真」とか「貫之」とか、もう少ししゃれた大和言葉の名前を付けてくれても良かったのに……と今でも育ての親を恨めしく思う時がある。

ただ、名前の付け方は杜撰だったが最初の飼い主に感謝せねばならぬことがある。

それは出生地主義の米国で生まれたお蔭で米国の市民権を獲得し、パスポートも取得して子供たちと一緒に幼稚園から大学まで進学させてもらったことだ。これが後年我が柴犬犬生に大きな役割を果たすことになろうとは当時知る由もなかった。なぜなら柴犬種族の持って生まれた資質に人間種族の言語、知識、一般教養が加味されて両種族の資質を兼ね備えることになったからだ。俗にいう「鬼に金棒」とはこのことだろう。

因みに我輩の大学の卒論のテーマは「人間種族との違い【危機に臨んで現れる外務官僚の特質に関する一考察】」というものだった。

今から振り返ると、実に我輩のその後の犬生を予告するようなテーマだった。