第一部 日本とアメリカ対立—

第二章 緊張の始まり

ペテン師の踊り

傍にいた我輩のご主人は

「うーむ、今は日米間のこじれた国交調整を何とか正常化せねばならん時期だから、多少のごたごたは覚悟してやってみる以外にないだろうよ。色々な意見があるかも知れないが、これくらいの突っ込みで日本側にぶつけると、意外な展開が開けてくるかも知れん」

といつもとは少し違って覚悟を決めた顔つきで、不安そうな表情を浮かべていた我輩に応えた。

我輩は協議に参加していた他の大使館幹部にも聞いてみたが、一様に

「軍部の判断次第だろうな……」

と煮え切らない。結局この場では何となくこの線で行くことになった。

我輩はペテン師の資格には欠けるがこう見えても怪しい匂いに対する特別の嗅覚だけは鋭い。この日の夜、バーボンを片手に我輩の主人にぶつけてみた。

「今日の参加者の顔ぶれをじっと眺めながらつくづく感じましたが、やはり正式交渉とは関係のない四人が時折集まってコソコソ相談している様は我輩の第六感では何となく胡散臭い匂いがしますね」

そして更に、

「もしこの動きが米国側も本筋なら日本側と論点整理して公式のテーブルに載せては如何ですか? 赴任時に大統領も『日米間の交渉は私と国務長官とご主人様の三人の間で進めたい』とおっしゃったことでもあるし……」

と、進言してみた。すると我輩のご主人は、

「いや。それは止めておこう。以前ウィンター氏に確認したがこの人たちの動きと整合性は取れていたからな。相手も任すところは任せているんだろう」

と言ってこの話は終わり、我輩にはこの日以降一度も声が掛からないまま月日は流れた。

この後四か月ほど続くこの騒動の責任は、我が柴犬の犬識観から見ると彼らをピシッと制御できなかった我輩のご主人の管理能力と行政能力の欠如、並びに日本側とのズレを認識しながらペテンの馬車に便乗した軽率と焦りにあったと思う。