第七章 家の改築

二年が過ぎた頃、家の改築の話になった。義父母が家を改築するのは一向にかまわないが、恭一は別のところに家を建てることをちゃんと貫一に伝えてあるのだろうか。結婚して間もない頃、恭一と二人でⅯ市に土地を見に行った。あれは夢だったのか。やっと今の生活から解放されると思っていたので結里亜のショックは大きかった。

二階に一部屋増築し、台所、水回りを直すことになった。結里亜が後に聞いた話では、この費用が二千万円かかり、恭一と結里亜の貯蓄から一千万円を出したそうだ。工事はほぼ一カ月かかった。

お昼には大工さんにみそ汁を出し、十時と三時にはお茶とお茶菓子と漬物を出すのが結里亜の日課となった。どこの家でもみそ汁を業者に出していたわけではないが、貫一と澄子に言われると出さないわけにはいかなかった。お茶の用意をして大工さんを呼びに行く頃に貫一と澄子もやってきた。三時のお茶の時間に手作りのドーナツや蒸しパンを出そうとすると、

「なんでこんなものを出すんだ、駄菓子で十分だ」

と貫一に言われた。お茶の時間に貫一と澄子が不在の時があった。大工さんたち四人は口々に言った。

「今日はおいしいお茶が飲める」

と一人が言うと、

「ほんとだ、しかしいつも息がつまるよな」

「嫁さんも大変だなあ、よくやっているよ」

と心配そうに結里亜の顔を見て、また一人が言う。

「そう思います?」

と結里亜が聞くと、

「見ていればわかるよ、だけどあまり無理をするなよ」

と一人が言う。続けて一番年長の人が、

「我慢ばかりしているとストレスになるぞ、頑張りすぎるなよ」

と言った。結里亜は

「はい、大丈夫です」

とうなずいた。他人は見ているのだ。近所の人からも

「ほんとによく尽くすお嫁さんだね」

と言われることも多かった。実際、貫一や澄子の前で、

「いいお嫁さんが来てくれてよかったね」

と隣近所の人が言っているのを聞いたこともある。澄子が近所の人にお茶に誘われ、行ってみると手作りのお菓子がテーブルに並んでいたようだ。今度は家に来てもらうという。それで、結里亜がマドレーヌを焼いて一緒にもてなした。

「結里亜さん、おいしいよ」

と近所の人たちは喜んで食べていた。うれしそうな顔を見ると結里亜も幸せな気持ちになった。