第七章 家の改築

二年が過我慢しなければならないのはそれだけではなかった。

敷地内の車庫には一台しか車が入らないので澄子の車や結里亜の車は車庫の前に止めている。バックで車を止めるので貫一と澄子は車を壁にぶつけることが時々あった。

その日も、結里亜と澄子が家の中にいると外で大きな音がした。

「お父さん、車をぶつけたのかなあ」と澄子が言う。

結里亜があわてて見に行くと、結里亜の車に貫一の車がぶつかっていた。

「こんなところに車があるからいけないんだ」と貫一が言う。自分は悪くないと主張してきた。

今までなら我慢もできた結里亜だが、

「私も、もう少し後ろに止めればよかったかもしれないけど、ちゃんと後ろを確認しながらゆっくりバックしてください」と言い返した。

貫一の車はたいした傷はなかったが、結里亜の車は前方右側面がへこんでいた。

「結里亜が悪いのだから修理代は出さないからな」と貫一が平然と言う。

結里亜は泣きそうになりながら家に戻って澄子に話すと、

「仕方ないよ、お父さんはそういう人だから」と言う澄子。

くやしさと悲しさでどうしていいかわからなかった。恭一に電話をすると、

「まあ仕方ないな、おやじはそういう人だから。自分で修理代を払うしかないな」と人ごとのように恭一は言う。

保険の等級が下がることは避けたかったので仕方なく結里亜は自分で修理代を払った。

もし結里亜と貫一の立場が逆ならすごい剣幕で怒り、結里亜に修理代を請求してきただろう。

「納得できないよ、いつまで我慢すればいいの」

結里亜は心の中でつぶやいた。

誰に話したら解決できるのだろう? 実家に帰りたい、でも帰ったら親が悲しむ。周りの人に何か言われるだろう。帰りたいけど帰れない。

お嫁に来る時に恭一に言われたことばがある。それは、「実家の敷居は、もう跨げないと思え」だ。三つしか年の違わない恭一からそんなことばが出るとは思ってもみなかったが、あの時は聞き間違いくらいに軽く流して聞いていた。

結里亜が嫁ぐ前は、貫一と恭一はよくけんかをしていたらしい。時には取っ組み合いのけんかをしていたと澄子から聞いた。結里亜と付き合っている頃から恭一は、「貫一のことが大嫌いだ」とよく言っていた。「親父のようには絶対になりたくない」と何度も聞いた。

「S市に生まれたことも汚点だ」とも言った。恭一は地区の行事が多いことも嫌がっていたし、地区の役員などやりたくないとはっきり言っていた。

なのに、どうして結里亜をここに連れてきたのだろう。

また、姉の玲奈も、「お母さん、お父さんと離婚してもいいんだよ」と小さい頃から何度も澄子に言っていたようだ。